読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

映画『コングレス未来学会議』(2013)

部屋のそうじをしていたら昔使っていた手袋が出てきた。愛着あるもので捨てるかどうか悩んだが、お気に入りの水玉もようや糸のほつれ具合までも懐かしくなり、結局のこすことにした。大切なものときっぱり別れることは難しい。この映画もそんな気持ちを思い出させた。

舞台は近未来のハリウッド。新作映画の出演オファーも今はない40歳をすぎた女優ロビン・ライト。彼女のもとに制作会社からCGキャラ化の話が舞い込む。女優自身が演技をするのではなく、すがたかたち、感情までも生きうつしたCGキャラを作って映画に出演させるというのである。しかしその契約をすれば、女優は一切の演技は禁止される。ロビンは難病の息子をかかえる母親で、息子のためにも一度はつっぱねたその契約を受けることに。

ロビンが女優業をやめる苦悩はもちろんわかる。ただ大切なものを手放す苦しみが一番伝わるのは、ロビンのマネージャー、アルのシーンだ。

CGキャラ化を決めたロビンは、女優ロビン・ライトのすべてをスキャンする機械で人生最後の演技をすることになるのだが、途中でできなくなってしまう。そんなロビンにアルが語りはじめる。彼の話を聞くと自然な感情が引き出され、カシャカシャと機械のスキャン音が鳴る。

効率よくスキャンをおこなうために話しはじめたのかと思いきや、それは違う。これはアルにとって、大切な仕事のパートナーに別れを告げる一種の儀式なのだ。ゆっくりと一つ一つの言葉の意味を噛みしめるような話し方は、聴く者の心にうったえかける。大切なものとの別れはつらいが、その確かな決意が彼の口調にもあらわれている。アルを演じているのは、ベテラン俳優のハーヴェイ・カイテル。人の心をうつ演技はさすが、脱帽せざるをえない。

大切なものを手放す苦しみというテーマは実は前半部分のものである。後半の舞台は20年後の世界。人々は失うことの苦悩も大切なものは何かということさえもとうに忘れ、己の欲望を満たすためだけに生きる時代に突入する。映画のなかの女優を観るのではなく、自分自身がその女優になる。なりたいと思ったものには何にでもなれてしまうのだ。

そんな時代のなかでロビンがどう生きるかがテーマとなる。皆と同じように欲望に溺れて生きることも、自分の生き方をすることもできる。彼女はどんな選択をしたのか。また歯止めがきかなくなった欲望の世界が、最終的にどんな世界になってしまったのかも描かれている。

後半の大半はアニメーションである。色鮮やかで独創的な造形をしたイメージの数々には圧倒されてしまう。さらに終盤のアニメと実写の効果的な演出がほどこされたシーンは見どころである。

わたしたちが生きる現代でも、時代の流れによって多くのものが失われてしまった。この映画は失われることへの苦しみを描くと同時に、欲望を最優先させるならば、本当に大事なものを見失ってしまう人間の愚かさを問うている。独特な世界観をもつSF映画のなかに現代に通じる強いメッセージが込められている。

 

コングレス未来学会議

The Congress/2013/イスラエル、独、ポーランドルクセンブルク、仏、ベルギー/120分/東風、gnome/監督:アリ・フォルマン/出演:ロビン・ライトハーヴェイ・カイテルジョン・ハムポール・ジアマッティ、コディ・スミット=マクフィー、ダニー・ヒューストン http://www.thecongress-movie.jp/